銀座の頂で息づく、日本料理の美学 ─〈百薬 by 徳山鮓〉
ミシュラン一つ星。そして「THE HUNDRED ロンジェビティハウス」の食を一手に担う店—それが銀座に佇む〈百薬 by 徳山鮓〉だ。三年発酵させた鮒鮓、料理長が自らの目で選び抜いた旬の一皿に、その理由が宿っている。
銀座・松屋通りのビル九階、先端の再生医療と伝統医学、日本の食文化を融合させた複合施設「THE HUNDRED ロンジェビティハウス」の最上階に、2024年11月、日本料理店〈百薬 by 徳山鮓〉は誕生した。店名は「酒は百薬の長」という故事に由来する。滋賀・余呉湖畔の発酵の名店「徳山鮓」を率いる徳山浩明氏が監修し、料理長・佐藤均氏が厨房を預かる。

和を基調とした店内には、目の前で調理が仕上がるカウンター席とプライベート性を重んじた個室を用意。空間に身を置き、器に触れ、一皿と向き合う時間までを含めてひとつの食体験とする—その細やかな仕事が、百薬という店の輪郭をつくっている。福島県生まれの佐藤氏は幼い頃から山菜やきのこを採り、川で魚を釣って育った。18歳で上京し青山「いち太」、西麻布「YAWYE」で研鑽を積む一方、自ら山へ入り産地を訪ね、生産者や漁師、市場の人々と信頼を築く“食材ハンター”となった。

「高いから買うのではなく、いいものがたまたま高かった、という感覚です」。春の山菜や茸はできる限り採り手から直接仕入れ、蟹のように相応の投資が必要な食材には惜しまない。天然物は「今日よかったから、明日もいいという保証は絶対にない」ため、決めた献立に無理に合わせず、毎日ネタを変えるほど柔軟に見極める。「都内で、これだけいい食材を食べられる店も、そうはないと思います」—その自負を象徴するのがこの日の佐藤氏が仕込んでいた島根県産の天然鰻だ。「養殖なら安定して80点は取れる。でも、自分の目で120点、150点の“当たり”を見つけて、それをお客様に提供したい」。身質、脂の乗り方、香り。個体差のなかから、その時の最高を見極める。

もう一皿の主役が、左ページの写真にある独特の香りと酸味を持つ鮒鮓だ。スライスして初めて内部の状態が見えるため「説明がなければ『これは何だろう』となってしまう。クセが強いので、少しでも食べやすくしたい」と佐藤氏。百薬では蝦夷鹿の澄んだコンソメに、発酵させた塩レモンと蜂蜜のジュレを合わせ、鮒鮓の酸味・旨味に鹿の奥行きある出汁、レモンの鮮烈な酸、蜂蜜の甘みを重ねる。クセを消すのではなく、異なる旨味を重ねて鮒鮓そのものの個性を一皿として立ち上げる—伝統食を現代の食べ手へ翻訳する仕事がそこにある。食中酒は余呉湖近くの蔵元「冨田酒造」の「七本槍」をはじめとして各種取り揃えられており、日常の食事というより上質な酒とともに味わう「肴」として位置づけている。
ロンジェビティハウスの中で佐藤氏は「調味料も最低限のもので仕上げて、食材そのものの味を大事にしたい」。人工的なものを極力使わず、素材が本来持つ味を引き出すことを、「一番ナチュラルな考え方」と捉えている。
〈百薬 by 徳山鮓〉は2025年に早くも『ミシュランガイド2026』一つ星を獲得したが、「自分がすごいのではなく、本当にいい食材を使わせていただいている。感謝だけは忘れないようにしています」と佐藤氏は語る。選び抜く厳しさと、素材を届けてくれる人への敬意—その両方があるからこそ、百薬の料理は成立する。その日、その季節にしかない“最高”を惜しみなく客の前へ差し出す。訪れるたびに新しい美味しさとの出合いが待っていることこそ、〈百薬 by 徳山鮓〉が食通たちに選ばれる理由なのだ。

百薬 by 徳山鮓
Hyakuyaku by Tokuyamazushi
住所:東京都中央区銀座4丁目4-2 銀座松屋通り安田ビル9F
TEL:03-5579-9760
営業時間:17:30~23:00(最終入店20:30)
定休日:日曜日・不定休
URL:https://salt-group.jp/shop/hyakuyaku/